異国で
きちんと仕事しようと思ったら、
その国の言葉をしゃべることは
必須の条件である。
イギリスで仕事する条件
離婚するとなると、
ひとりで生きていくわけだから、
当然働かなければならない。
げばは
福祉関係の仕事に就いた。
この仕事は体力的に大変だけれど、
人の世話をするのは
元々好きだったので、
げばにとっては、
適職だった。
毎日がとても楽しかった。
福祉士としてトレーニングを受け、
福祉士の資格も取った。
その時、
思わぬことを会社から申し渡される。
「あなたは外国人だから
英語と数学の
一般教養の資格が追加で必要です。
だから福祉士の試験に受かっても
英語と数学も同時にとってくださいね。」
げばは夜間高校に入り、
英語と数学をイギリス人と勉強した。
数学は日本人らしく、まあまあだった。
だが、目も当てられないレベルは英語である。
それでも試験勉強は頑張った。
生きていくためである。
数学は軽く合格できたが、
英語の3項目(読み、書き、スピーチ)のうち、
書きを…..Writingを落としてしまった。
よく年、また落ちた。
そして翌々年、今度はコロナパンデミックで試験は中止に。
もう勉強するのやだ!
と真剣に思った。
病院勤めをはじめる
長年、勤めていたケアセンターを辞めて、
げばは病院に転職する。
そこで、もう一度、
福祉士資格の話が出た。
それならもう取ってある。
もう勉強しなくていいはずだ。
しかし、
病院の資格は
NHSが独自に行なっており、
もう一度、
資格を取り直す必要があると言われた。
かんべんしてくれ!
そして
またもや
英語証明がいるということだ!
まったく
憎たらしい限りである。
NHSの福祉士証明書 (Care Certificate)
の勉強を始めた時、一般教養としての「英語」の勉強も
一緒に付録としてついてきたのだ。
不毛の英語学習
英文を読むのは慣れたら、読める。
問題は書く答案、
「ライティング」だ!
日本人は質問形式の出題は得意だが、
自分の意見を言う「ライティング」は苦手である。
例えば、
ある日の「ライティング」問題はこうである。
「ある老人ホームでは、利用者たちが
毎年地元のホテルで行われるクリスマスパーティーに、
バスを貸切にして集っていた。
これは地元のバス会社が
その老人ホームのために、
正規の値段は取らず、
特別安く提供してきたのだった。
しかし、最近の不況で、
長いこと維持してきた、その特別価格を維持できなくなってきた。
バス会社は、ひとり£5の値上げを知らせてきた。
あなたは老人ホームのマネージャーから
バス会社に手紙を書きなさい。といわれる。
それには、以下のことを含む手紙にしなければならない。
•バスの価格を据え置きにする
•車椅子の人が4人乗車するので、彼らのために特別な措置が必要なこと。
•彼らはお年寄りで、年金生活の苦しい状況。
•よってバスの値上げを行えば彼らはパーティーに行けない。
•そんな悪道非道な振る舞いを、なじみのあなた(バス会社)がしないことを祈る….」
ジレンマの答案用紙
ばかもん!
ふざけるんじゃありません!
この出題を見て、
マネージャーをむんずと捕まえて、
説教したくなる衝動に駆られた。
このマネージャーのなんという厚顔無恥!
会社はビジネスをするところである。
その会社が今まで老人ホームのために
利益を削ってきたのに。
しかし、今年は、どうしてもその値段でやっていけないために、
正直に、老人ホームに手の内を明かしたのだ。
バス会社は正直である。
その正直もんに対して、
「バスの値上げを行えば
彼らはパーティーに行けない」だと!!
なんという汚い
ブラックメールだ!
かわいそうだと思うなら、
コラ、マネージャー!
てめえが自分のポケットマネーで
ひとり£5くらい、払ったらどうなんだ!
それどころか
「車椅子の人のために今年から
特別な措置を行え!」だと?!
特別な措置とは、車椅子で乗れる大きめのバスを用意しろと言うことだ。
普通なら、その分余分に料金を払わねばならないのに、
「バスの価格は据え置きにしろ」だと!!!
このマネージャーは
バス会社を自分の「手下」とでも思っているのか?
うちは老人ホームよ!弱い立場のあたしたちによくするのは当然でしょ!
という「命令の声」が聞こえてきそうである。
しかし、
これは
英語ライティングの問題である。
それにきちんと答えないと、
試験に合格しないのだ。
私は、自分の怒りの心を押し殺し、
心にもないことを書かなければならない。
…….不毛な学習なのである。