楽しいハロウィーンは幼児のために
結婚したてのころである。
夫が出かけにこういった。
「今日は子供達がやってくるかもしれない。来たらお菓子をあげるんだよ。」
なんで?
「トリックオアトリートの日だからね。」
トリックオアトリート?
Trick or Treat?
ああなんか英語の教科書に書いてあったな。そんなこと。
ハロウィーンのことか。
あの頃はまだわたくしも純であった。
夫の言うままにいそいそと
ポケット菓子を買いにいったものだ。
やがて子供が産まれ、
彼女たちもハロウィンのイベントに参加するようになった。
友達と仮装して外にでていき、大っぴらにお菓子をねだれるこのイベントは
子供達の楽しみの一つ。
クリスマス前の大イベントである。
彼女たちも幼稚園児くらいに成長すると
吸血鬼や魔女、ゴーストなどに扮して
友達と共に隣近所を練り歩いたものだった。
もちろん安全のために親たちも交代で付き添っていた。
見慣れた子供達がドアをたたき、
あどけない声で
「Trick or treat!」と声を張り上げる様はなんとも可愛らしい。
近所の大人たちは喜んでお菓子や、コインを与えた。
しかしこのハロウィンの風習を悪用するものがやがて現れる。
Trick or Treatと称して家に入り込み、強盗する事件が多発したのだ。
「Trick or Treat は危険だから決して戸を開けないように」
世論は声高に住民に警告した。
娘たち16歳のハロウィン
Trick or treatは禁止された。
いや正確には奨励されなくなった。
成長した長女のりんごちゃんは、そのころ16歳になっていた。
しかしながら彼女たちティーンエイジャーにとって
ハロウィーンがお祭りであることに変わりは無い。
彼女は仮装パーティーを開催したのだ。
16歳とは
外見は大人だが、中身はガキである。
何も知らないげばはりんごちゃんが指定したパーティー会場に車を走らせた。
「スリープオーバーだから明日帰るね」
りんごちゃんは笑顔で手を振った。
げばはなにも疑わずそのまま帰った。
草木も眠る丑三つ時
電話が鳴った。
りんごちゃんからだ。
「マム…….」
消え入るような声である。
「えっなに?りんご!?」
時計を見ると夜中の2時。
「助けて」とのたまう。
状況が見えない。
何が起こった?
「今、外なの」
外!!?
その夜は嵐で激しく雨がふっていた。
中でパーティーをしているはずの彼女が
なぜ外で雷雨に打たれているのだ?
「とにかく迎えに行くから!そこどこなのよ!」
げばは彼女のいうアドレスに車を走らせた。
娘を見つけてウィンカーをだし、車を止めたら
思わずギョッとした。
彼女は一人ではなかった。
他数人の男女も私を待っていたのだ。
「この子達も泊めさせてほしいんだけど」
りんごちゃんの言葉に
わたくしは怒り心頭である。
真夜中に叩き起こされ、大雨の中ドライブすることとなり、
おまけに
彼女の女友達と見知らぬ男どもを泊まらせろだとぉ
答えは決まっている。
NO!
そういうとりんごちゃんは
「パーティー会場だったお家のお母さんもそういって私たちを追い出したのよ。」
「どうしたらいいのよ。こんな真夜中で雨も降ってるのに」
そのお母さんの気持ちはよくわかる。
たぶんお母さんは女の子だけのパーティーだと思ったのだ。
それなのに急に男が参入してきて一緒に雑魚寝するなんて
とんでもないことだ。
だから怒って追い出したのだ。
りんごちゃんはずるい!
私がNOというのをわかってて
それでも
大雨の中拒否できないことを知った上で
私をここまでこさせたのだ。
大雨に打たれながら
どうしようもない憤怒をかかえたまま
私は全員を車に乗せた。
それから3年後、
みかんちゃんも16歳になった。
姉と同じくハロウィンパーティーにでかけるという。
数時間後、
みかんちゃんは歩いて帰宅した。
しかしなんかおかしい。
ガヤガヤ人の声がする。
玄関に行ってみると
ゾンビが6匹!
正確にはゾンビ姿の男女6名がそこにいたのだ。
「なに!これ!どうしたのよ!パーティーじゃなかったの!?」
みかんちゃんがいうには
「街を歩いていたら急に雨が降ってきた。
寒いし濡れちゃうから、街に一番近い我が家に避難してきた。」
と答える。
ああ雨宿りなのねと思っていたら、やがて真夜中になり
ゾンビたちはそのまま我が家に逗留していった。
これ以来
私はハロウィンが嫌いになったのだ。