病院にいる患者さんは

よくなることに精一杯。

お化粧して綺麗でいる

ーなんて、そんな、

とんでもない。

そもそも普段から

化粧っけのない婆さんばかりなのだ。

いや、しかし

ひとりだけ、

毎日きれいに化粧していた患者さんがいた。

「いつも綺麗ですね」と声をかけると

「あら私、化粧してないのよ」という。

「えっー! でも眉毛なんて綺麗に描いてるじゃないですか!」

と私がいうと、

「ああこれね、これ描いたんじゃなくて、」

タトゥーなの」

同僚の大変身

まったく

眉ひとつ綺麗にするだけで

こんなに顔が変わるものか?

なんでも

顔の印象の8割は眉毛で決まる

というらしい。

そういえば

あの患者さんだけ

他とは違って見えた。

女は綺麗になると

少しばかりの

いや

かなりの自信になるんだな。

じつは私は眉毛がコンプレックスなのだ。

年と共に眉尻がうすくなって、

アイブロウのペンシルが欠かせない。

しかし仕事で汗をかくと

眉はとたんに消えてしまう。

眉が消えた私の顔はみれたもんじゃない。

それはまるで江戸時代の大奥にでてくる「大年寄り」の形相である。

いや大奥の眉なし女はまだ化粧してるからみれる。

汗で化粧が落ちた眉なし女はただのばあさんである。

私もアイブロウタトゥーしようかしら?

でも自分のイメージと違うまゆにされたら嫌だな。

そんなことを思っていた矢先、

同僚がある日突然、

素晴らしい化粧をしてやってきたのだ。

「うわぁーあなた綺麗に眉描いたわね!上手ね!」

すると同僚はいう。

「これね、タトゥーなのよ」

彼女の眉はすごく綺麗だった。

「すてき!」

「ねえねえ、どこでやったの?いくらだった?」

そのサロンは

われらの病院と同じ街にあり、値段もお手頃価格だった。

うーん

まずはアポイントをとって話をきいてみよう。

私はとりあえずコンサルタントの予約をとって

そのサロンに出かけて行った。

アートメイクアップアーティスト

「ハロー、わたしがセラピストのオルガよ。よろしくね。」

癖のある英語をじゃべるこのセラピストは、ルーマニアかポーランドあたりの東ヨーロッパから来た女性だった。

ここ数年、イギリスは東ヨーロッパの移民が大量に増えた。

今日は軽くタトゥーの情報を聞いて帰るつもりだった。

しかし、オルガは

「今日時間があったら、今からタトゥーしてあげるわよ。」

「えっ本当!」

げばの新し物好き好奇心がさわぐ。

大丈夫かな?

いやいや、ヤニス(同僚)の眉で彼女の腕前は証明済み。

やりたいと思うなら、

今やるのもあとでやるのも同じこと

それなら

……….

やっちゃおうか?!

「じゃあお願いします」

私は思わず言ってしまった。

彼女はにこにこして、ヘルスチェック、規約などをタブレットを用いて説明し、私のサインを促した。

それらのペーパーワークが済むと、

彼女はプロの写真家が使うような照明をもってきて、明かりの中に浮かぶ我がすっぴんをバチバチ撮り始めた。

施術前、施術後を比べるためだ。

すっぴんを撮られるのはいやだが、

私の顔をこれからいじるおん方の機嫌を損ねたら大変。

いい気分で仕事させて、是非ともいい仕事をしていただきたい!

すがるような思いを込めて、私はオルガのモデルになったのだ!

(この出来事が

あとで私に大後悔させることになろうとは、

この時の私は予想だにしなかった)

タトゥ体験

写真を撮り終えたオルガは私の眉を下書きし始めた。

特殊な糸のようなペンシルを用いて、我が頭蓋骨に合わせた眉尻、眉頭の位置を決めてゆき、こんな感じにするからと「下書きが終わった我が顔」を鏡でみせてくれた。

おおっ!

いい感じ!

私がオーケーを出したので、

いよいよその下書きに合わせて色を入れ込んでいく。

細い施術用のベッドに横たわり、オルガは描き始めた。

初めての入れ墨体験!

私は眼を閉じた。

「私、入れ墨するんだぁ!」

こう思った時、

ふと過去の記憶が蘇る。

昔、ティーンだったりんごちゃんが

「ねえ、私タトゥーしたいんだけど、いいよね」

と言ってきた。

「なに!」

「タトゥ!」

「入れ墨だとぉ!」

私は烈火の如く怒った。

「ぜったいだめ!許しません!」

あのころ日本の温泉施設、プール施設では入れ墨、タトゥを入れている人の入場を固く断っていたのだ。

親子で温泉に入りたいという夢を持っていた私は、彼女のお伺いを即刻却下したのだ。

タトゥ大反対だったこの母親は今ヘラヘラと

眉にタトゥしているのだ。

まああるべきところにあるべき色をいれるだけで、

これは蝶々入れ墨のような彩色ではなく、

補助というものでしょ。

言い換えれば、

歯のない口に入れ歯いれるようなもの!

眉毛のない眉に眉入れするようなもの!

温泉宿もこれがよもやタトゥとは思わないて!

かっかかかかか

と水戸黄門のような笑いを心の中で思い描いていた。

さてそんなことを思っておったわたくしは

目を閉じていたせいか、

うつらうつらと居眠りを始めた。

オルガはカリカリと私の眉を彫刻していた。

「あら寝ちゃったりなんかして、気持ちいいですかぁ?」

なんていうのが聞こえた。

目が覚めると、素晴らしく美しくなったわたくしがいる。

そう信じて疑わなかった。

どれくらい経っただろうか!?

「はあい、終わりましたよ。」

オルガの声が聞こえた。

「んもう!すっごく素敵な仕上がりになってますよ!髪の色と眉の色が全く同じでパーフェクト!」

「へぇーそうなんだ」

私の期待度は最高潮に達している。

ワクワクして覗いた我が顔は!

!!!!?

!!!!!!!!!?

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

うっわーーーーー!

「イモトアヤコだ!」

YouTubeで見た人気バラエティ番組「世界の果てまでイッテQ 」にでてくる極太眉メイクのハンター イモトアヤコ、

の眉そっくりだった。

投稿者 geba-

21年の国際結婚にピリオドを打ち、今現在シングルアゲインしています。この生活は思った以上に快適で、NHSの病院で働きながら、漫才みたいな生活を楽しんでいます。女子トーク、イギリス生活、そしてシリアスな人生観を書いていきます。

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